相続登記
被相続人が会社を経営していた場合
はじめに
被相続人が会社を経営をしていた場合、会社は相続対象となるのでしょうか。
会社の経営は家族が引き継がなければならないのか、会社の資産はどうなるのか、どのような手続きが必要なのかなど、よくわからなくてお困りの方も多いと思います。
会社は法人であり、経営者個人とは別の権利主体です。会社の財産は会社の所有物であり、経営者が亡くなったとしても相続の対象とはなりません。また、代表取締役を含む役員と株式会社との法律関係は民法の“委任”に関する規定に従うものとされ、役員が死亡すると役員と株式会社との契約は終了します。したがって、取締役などの地位が相続されることはありません。
相続の対象となるのは、株式会社・特例有限会社であれば株式、持分会社(合名・合資・合同会社)であれば持分を払戻す権利となります。死亡による役員退任あるいは社員退社の登記は必要ですが、相続によって株式等を取得するだけであれば、それについての登記手続きは必要ありません。
会社の経営を引き継ぎたい時
株式会社の場合
死亡した代表取締役が唯一の代表取締役だった場合、会社を代表する機関が存在しなくなってしまうため、後任の代表取締役を選任しなければなりません。株式会社が取締役会設置会社の場合、取締役会の決議によって取締役の中から代表取締役を選任します。取締役会設置会社でない場合は、定款によって、もしくは定款に基づく取締役の互選か株主総会の決議によって取締役の中から選任されます。したがって、相続人が新たな代表取締役に就任するためには、すでに取締役である必要があります。代表取締役の氏名・住所は登記事項であり、後任の代表取締役選任後、2週間以内に役員の変更登記を行います。
では、代表取締役が唯一の取締役だった場合はどうなるでしょうか。この場合、代表取締役だけでなく取締役も存在しない状態となりますが、取締役は株式会社にとって欠くことのできない必須の機関のため、すぐに後任の取締役を選任することになります。取締役の選任は株主総会の決議によって行いますが、招集権者の取締役がいないため、全株主の同意を得て招集手続きを省略して株主総会を開くことができます。それが難しい場合などは、裁判所に一時役員(取締役)選任の申し立て行い、株主総会を招集します。相続によって新たに株主になった相続人は、株主総会で新たな取締役を選任することができます。
特例有限会社の場合
特例有限会社の場合は株式会社の取締役会非設置会社の場合と同様です。
持分会社(合名・合資・合同会社)の場合
持分会社には「法定退社事由」が定められており、社員が死亡すると自動的に退社することになります。社員の死亡と同時に「持分」が失われ、社員としての地位は相続することはできません。相続人が相続するのは死亡した社員が持っていた持分の払戻しを請求する権利です。もっとも、定款に定めることによって、社員の持分をその相続人が承継できるようにすることもできます。持分を承継した相続人は当該持分会社の新たな社員となりますので、死亡した社員の退社登記に加え、新たな社員加入の登記を行うこととなります。
社員が一人しかいない合同会社で社員が死亡すると社員が誰もいなくなりますが、これは「法定解散事由」に該当します。たとえ夫婦や家族で共同して経営していたとしても、残された人が社員でなければ、商売を続けることはできません。定款に「相続による持分承継の定め」がない合同会社は、社員の死亡により解散し、清算手続きに入ります。なんとか合同会社を継続させる方法はないか、どうにかすれば存続できるのではないか、と思われるかもしれませんが、復活させる方法はありません。したがって、社員が一人の合同会社であれば、定款に「相続による持分承継の定め」をおくことを検討したほうがよいでしょう。
合資会社の社員が死亡したことで、社員が有限責任社員のみ、あるいは無限責任社員のみとなる場合は、合名会社・あるいは合資会社へのみなし種類変更が生じます。登記手続きとしては、社員死亡による退任手続きの他に、種類変更による設立登記が必要です。
被相続人が会社の債務を保証していた場合
保証債務は相続人に引き継がれます。特定の財産のみ相続放棄することはできませんので、相続財産に自宅不動産や預貯金などがある場合は注意が必要です。
会社に関する登記手続きは複雑です
会社に関わる登記は、会社の形態や内容によって必要な手続きも書類も様々です。もし相続が生じた場合には、速やかに専門家に相談することをお勧めします。(文責・桃田)