相続に関する税金
遺産の中に文化財建造物等があるとき
はじめに
日本には、歴史的に重要な家屋や芸術的に貴重な建造物など、後世に残すべき文化財が多くあります。そのような建物は先祖から代々引き継がれているケースがほとんどかと思いますが、もしご自身が相続することになった場合、相続税評価額はどのように計算されるのでしょうか。
本稿ではそのような文化財建造物の相続税評価についてご説明します。
文化財建造物とは
文化財建造物とは、文化財保護法によって「有形文化財」に分類されているものの中で、「重要文化財」に指定された建造物、「登録有形文化財」である建造物、および「伝統的建造物」である家屋をいいます。
「重要文化財」は有形文化財の中でも特に重要なもので、世界文化の見地から特に価値の高いものは国宝に指定され保護されています。重要文化財と国宝は合わせて5,000強ありますが、個人が所有しているものはほとんどありません。
「登録有形文化財」は、文化財登録制度によって特に保存や活用が必要とされた建造物です。代表的なものでは東京タワーなどが該当します。全国で12,000強の建造物が登録されていますが、こちらも個人が所有しているケースは少ないです。
「伝統的建造物」は、城下町・宿場町・門前町などの歴史的な集落・町並みの保存が図られている(重要)伝統的建造物群保存地区にある建造物です。例えば川越市川越(埼玉県)などが該当し、全国で約120地区が重要地区に指定されています。これらは前述の2つと比較すると、個人が所有しているものが多いと考えられます。
文化財建造物の評価
文化財建造物は、文化財保護法等によって所有者の自由な利用・処分が規制されていることから、売買実例がほとんどなく、将来的な活用も見込めません。よって、市場で流通することを前提とした財産評価に馴染まないことから、法律の規制の程度により一定の減額がされます。
文化財建造物である家屋の価額は、それが文化財建造物でないものとした場合の価額から、その価額に一定の控除割合を乗じて計算した金額を控除した金額によって評価します。なお、文化財建造物でないものとした場合の価額は、次に掲げる場合の区分に応じた金額によります。
1.文化財建造物である家屋に固定資産税評価額が付されている場合
→その文化財建造物の固定資産税評価額を基として前項の定めにより評価した金額
2.文化財建造物である家屋に固定資産税評価額が付されていない場合
→その文化財建造物の再建築価額(課税時期においてその財産を新たに建築又は設備するために要する費用の額の合計額)から、経過年数に応ずる減価の額を控除した価額の100分の70に相当する金額
また、控除割合は下表の通りです。
文化財建造物の種類 |
控除割合 |
重要文化財 |
0.7 |
登録有形文化財 |
0.3 |
伝統的建造物 |
0.3 |
文化財建造物である構築物の評価
文化財建造物のうち、土地構造物やその他の工作物のような構築物ついては、財産評価基本通達96、97により定められている一般的な構築物として評価した価額から、上表の控除割合を乗じて計算した金額を控除した価額によって評価します。
文化財建造物の敷地の評価
文化財建造物の敷地の用に供されている宅地については、それが文化財建造物である家屋の敷地でないものとした場合の価額から、その価額に上表の控除割合を乗じて計算した金額を控除した価額によって評価します。
なお、文化財建造物である家屋の敷地の用に供されている宅地(倍率方式により評価するものに限る)に固定資産税評価額が付されていない場合、その宅地と状況が類似する付近の宅地の固定資産税評価額を基とし、付近の宅地とその宅地との位置・形状等の条件差を考慮して、その宅地の固定資産税評価額に相当する額を算出し、その額に倍率を乗じて計算した金額によって評価します。
おわりに
以上、文化財建造物の評価について簡単にご説明いたしました。
文化財建造物が建てられている土地や文化財建造物を相続した場合は、相続税評価額から一定の割合を控除できるので、通常の不動産の相続と比較すると相続財産全体の評価額は下がることになります。しかし相続人にとっては、自由に活用できない不動産であるにも関わらず相続財産として評価され、場合によっては相続税を支払うことになりますので、それ以外の財産があまりない場合などは、負担が大きくなってしまいます。
文化財建造物に限らず、相続財産の評価は非常に複雑です。お困りの際は経験豊富な専門家へご相談されることをお勧めいたします。