相続コラム

~相続に関する税金~
贈与税

2024.01.29

相続に関する税金

おしどり贈与の制度を知ってる?

はじめに

おしどり贈与とは、贈与税の配偶者控除という特例の通称です。婚姻期間が20年以上の夫婦の間の贈与に使える特例なので「おしどり贈与」といわれています。

この特例を適用するには、決まった要件を満たした上で添付書類を揃えて贈与税の申告をする必要があります。

本稿では、おしどり贈与の特例の適用要件と手続きについてご説明します。 

特例の概要

婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例です。

つまり、贈与財産から計2,110万円を差し引いて税額を計算することになります。 

特例を受けるための適用要件

1.夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと

2.配偶者から贈与された財産が、 居住用不動産であることまたは居住用不動産を取得するための金銭であること

3.贈与を受けた年の翌年315日までに、贈与により取得した居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること

※「居住用不動産」とは、専ら居住の用に供する土地もしくは土地の上に存する権利または家屋で国内にあるものをいいます。

※同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用を受けることができません。 

適用を受けるための手続

次の書類を添付して、贈与税の申告をすることが必要です。

1.財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍謄本または抄本

2.財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍の附票の写し

3.居住用不動産の登記事項証明書または贈与を受けた人がその居住用不動産を取得したことを証するもの

※金銭ではなく居住用不動産の贈与を受けた場合は、上記の書類のほかに、その居住用不動産を評価するための書類(固定資産評価証明書など)が必要となります。 

特例を利用した場合のメリット・デメリット

おしどり贈与をする目的が日頃の感謝の気持ちを伝えたいというようなものなら考える必要はありませんが、もし節税を目的に特例を活用しようということでしたら、メリット・デメリットをしっかり把握しておく必要があります。

【メリット】

1人の人が保有する財産を配偶者に分散することで、相続税の節税ができる。

 たとえば財産のほとんどを夫が保有している状態で夫が先に亡くなると、妻が夫の財産を相続する際に相続税が発生することがあります。しかし、おしどり贈与を活用して居住用不動産の一部を妻に移しておけば、その分だけ相続税が減額または発生しない状態にすることが可能です。

②相続の直前の贈与であっても相続財産を減らすことができる。

 通常だと相続発生前3年以内に行われた暦年贈与財産は相続財産に加算しなければなりません。しかし、おしどり贈与により移転した財産については、相続財産に足し戻す必要がありません。そのため、近いうちに相続が発生するかもしれないという状況であっても、利用することで相続財産を減らすことができます。

③いずれ自宅を手放そうと考えている人は3,000万円特別控除が使える。

 将来的に自宅を売却することを想定している場合、居住用財産の譲渡の特別控除として、所得金額から3,000万円が控除されます。自宅の名義が夫だけであれば、売却による所得は夫に発生するため、3,000万円だけが控除されることとなります。一方、おしどり贈与を利用して妻にその持分を贈与しておいた場合、夫と妻の双方で3,000万円控除が適用できるため、その分だけ所得税が減額または発生しない可能性が高くなります。

【デメリット】

①おしどり贈与を使わなくても、配偶者の税額軽減で相続税を減らせる可能性がある。

 相続税にも配偶者の税額軽減があります。これは、亡くなった人の配偶者が相続で財産を取得した場合に、相続した財産の金額が16千万円以内である場合か、16千万円を超えていても法定相続分までは、相続税が非課税になるものです。それを超えて相続税が発生しそうな場合はおしどり贈与が有効かもしれませんが、その場合は贈与時のコストを相続税の節税額が上回るかどうかを確認する必要があります。

②不動産取得税、登録免許税等のコストがかかる。

 居住用不動産の取得資金の贈与ではなく不動産そのものを贈与した場合、不動産取得税と登録免許税という税金を支払わなければいけません。

 まず不動産取得税は、不動産を取得した人が払わなければいけない税金です。ただし、相続で不動産を取得した場合にはこの税金は課されません。

 また登録免許税は、不動産の登記の際に課される税金となります。贈与の時には不動産の2%が登録免許税の税額になるのに対し、相続の時には0.4%で済みます。

 おしどり贈与をする際には、税金を今払ってでも将来の相続税のメリットが上回るかを考える必要があります。

③おしどり贈与を受けた人が先に亡くなってしまう可能性がある。

 せっかく配偶者におしどり贈与をしたのに、贈与された人が贈与した人より前に亡くなってしまって贈与した人に財産が戻ってしまうと、コストをかけておしどり贈与をした意味が無くなってしまいます。特に相続人が配偶者しかいない場合は、おしどり贈与をするかどうか今一度よく考えてみる必要があります。 

おわりに

以上、おしどり贈与についてご説明しました。

贈与自体にある程度のコストがかかることや相続税の配偶者の税額軽減の特例もあることから、この特例の効果が得られる人は一定額以上の財産を持つ限られた人だということがお分かりいただけたかと思います。ご自身がこの特例を使って節税できるのかどうかという試算は、専門的な知識や細かいシミュレーションが必要になりますので、是非経験豊富な専門家にご相談されることをお勧めいたします。

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