相続コラム

~遺産分割~
遺産分割協議、こんな時は?

2024.12.03

遺産分割

過去に作った遺産分割協議書の瑕疵

はじめに

 令和6年4月から相続登記が義務化されたため、何年も前に発生した相続についての登記手続きを頼みたい、というような依頼が多く寄せられるようになっています。中には、相続発生当時の相続人間で遺産分割協議が成立し、遺産分割協議書が作成されたにもかかわらず、相続登記手続きを行っていないという場合もありますが、そのような場合であっても、過去に作成した協議書に基づいた登記手続きを行うことが可能です。では、その協議書の形式に不備があったり、内容に間違いがあったりした場合、手続きを進めることはできるのでしょうか。

専門家以外が作成した遺産分割協議書

 弁護士や司法書士等の専門家以外の相続人や親族などが、インターネットや書籍の記載等を参考に遺産分割協議書を作成する事は多くありますが、形式に不備があったり、内容が不十分であったり、間違った記載をしてしまうことがあります。またまれに、相続に明るくない知り合いの(弁護士・司法書士以外の)士業に依頼したにもかかわらず、相続登記の添付書類とするには疑義の生じる内容の協議書を作成されていたこともあります。内容に問題がある協議書を作成したからといって、遺産分割協議そのものが無効となるわけではありませんが、その内容を証明する書類としては不十分なものとなってしまい、場合によっては登記手続きが認められない事態となってしまいます。

遺産分割協議書の内容として必要なこととは

 登記手続きにおいて必要とされる遺産分割協議書の内容は、①だれ(被相続人)の②どんな財産を③だれ(相続人)が④どのような割合で相続するのか、について、しっかりと特定することです。さらに、協議書には相続人様全員のご実印の押印と印鑑証明書の添付が求められます。この点、よくありがちな間違いとして、「②どんな財産を」に関し不動産の表示を地番・家屋番号ではなく住所としてしまったり、登記簿上の表示と異なった地積等を記載してしまったりする場合があります。また、相続人の実印がなかったり、印鑑証明書が不足している場合なども見受けられます。

 そのような場合、遺産分割協議を行った相続人様方がまだご健在であれば、正しい内容の協議書を新たに作成し、実印・印鑑証明書の要請も充たした上で手続きを行う事が最良といえますが、相続人の中に協議後に亡くなった方がいる場合には不可能です。もっとも、遺産分割協議自体はきちんと成立しているにも関わらず、書面の不備によってその実現ができないことは問題があると言わざるを得ません。では、どのような方法が取りうるでしょうか。

遺産分割協議が真正に成立したことの証明

 登記手続きを行う法務局は、案件についての実体判断をおこないません。特定の内容の遺産分割協議が成立しているか否かについては、それを証明するものとして申請書に添付された書面を画一的な運用の元で判断します。たとえば、協議書の内容に「1」と記載されてあったとして、これは本当は「2」の誤記だ、と主張しても、法務局はそれを判断する権限を持ちません。その権限を持つのは裁判所です。したがって、遺産分割協議の内容を証明する事ができないのであれば、裁判手続きを利用するべきということになります。

 とはいえ、利害関係人である相続人全員がその遺産分割協議の内容に同意しているのであれば、わざわざ裁判手続きを利用する事は当事者にとっても裁判所にとっても過大な負担となるといえるでしょう。そこで、遺産分割協議の正しい内容を記載した「遺産分割協議は真正に成立した旨を証明する文書」を相続人全員の名義にて作成し、全員の実印と印鑑証明書を付すことで、当初の協議内容通りの登記を入れることができるという運用がなされています。このような運用によって、実体に即した登記を簡便な方法で実現する事ができます。

遺産分割協議書の作成は専門家に依頼しましょう

 上記のような方法があるとはいえ、大切な権利の実現に不可欠な遺産分割協議書を専門家以外が作成する事は多くのリスクがあります。家族で争いはないから、大した財産はないからなどと事態を軽く考え、また費用の面ばかりに着目し、後で大事に至る事のないよう、遺産分割協議書の作成は専門家に依頼する事を強くお勧めします。

 

(文責:桃田)

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