相続登記
登記名義が知らないうちに変更されていた!~債権者による代位登記とは?~
はじめに
基本的に登記申請手続きは、現在の所有者と新たに所有者となる者が共同で行います。
もしくは司法書士などの代理人に登記申請手続きをお願いすることもよくあるケースです。
しかし、まれに登記申請手続きを怠っていた場合に、いつの間にか不動産の登記名義が知らないうちに自分になっていた…というケースがあるのです。
今回は債権者による「代位登記」についてご紹介します。
そもそも代位登記って何?
まずわかりやすく例を挙げてみます。
Aさんの父親が亡くなり、父親の相続財産は子どもであるAさんが相続することになりました。 父親には持ち家がありAさんが相続したのですが、Aさんは相続登記を怠りそのまま放置していました。 実はAさんには多額の借金があり、Aさんにお金を貸した債権者Bさんはその借金の返済が滞っていて、いつ返してもらえるのだろう…と、心労が絶えません。 借金の返済予定日はとっくに過ぎていて、さらにAさんには完済のための資力がないようです。 Aさんが早く登記名義を変えて持ち家を相続してくれれば、その持ち家を差し押さえて競売にかけ、借金の返済に充てることだってできるのに…。 |
「代位登記」とは、債権者が自らの債権(例えばお金を返してもらう権利)を守るために、債務者(Aさん)の持つ登記申請権を本人の代わりに行使し、強制的に登記名義を正しく変更することを指します。
所有権をAさんに変更することで持ち家はAさん所有の財産になり、債権者も差し押さえなどの対応ができるようになるのです。
もちろん全く関係のない不動産をAさんの名義にすることはできません。
あくまで債務者が持っている権利を代わりに行使する、という範囲になります。
勝手に登記されるなんて許されるの?
「勝手に名義が変わるなんて、そんなの許されるの?」
そう思う方もいるでしょう。
この代位登記は、民法で定められている「債権者代位権」に基づいて行使される、れっきとした法定手続なのです。
債権者代位権(民法第423条) ①債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。
②債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。
③債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない |
債権者代位権は債務者の持っている権利を代わりに行使することになりますから、行使する場合には厳しい要件が定められています。
・債務者が無資力であること
「無資力」は、資力が一切ないということではなく、完済するための資力が足りない
状況を指します。
債務者に完済する資力があるなら、その資力から返済してもらえばいいからです。
他に手段がない、代位権を行使しなければ債権者の権利が危うい、という状況が
必要です。
・被保全債権が弁済期に達していること
被保全債権とは、債権者が持っている守るべき権利。
例えば貸しているお金を返してもらう権利のこと。
返済期日がまだ到来していないのに返済してもらうために債務者の権利を行使する
ことはできません。
原則として、まずは期日まで待ってあげましょう。
・被代位権利が差し押さえ可能であること
被代位権利とは、今回債権者が代位で行使する債務者が持つ権利。
前述の事例であれば、名義変更登記を行う権利のことを指します。
差し押さえを禁じられた権利とは、例えば年金や生活保護の受給権などです。
・被代位権利が一身専属権ではないこと
一身専属権とは、個人としての法的地位と密接に関係しているため、他人による権利
行使を認めることが不適切な権利のことです。
簡単に言えば、その人でないと行使すべきでないと考えられる権利のこと。
例えば著作者人格権や離婚請求権、先述した年金や生活保護の受給権などです。
このように、いつでも代位行使できるわけではなく、要件を満たすことで初めて債権者代位権及び代位登記を行うことができます。
自分が債権者の立場であっても、債務者の立場であっても、債権者代位権の要件は一度確認しておいた方がよいでしょう。
おわりに
今回は代位登記の基本をご紹介させていただきました。
主に債権者が個人であるように記載しておりますが、それ以外にも銀行や、固定資産税・相続税の滞納がある場合には国が、債権者として代位登記をしてくるケースもあります。
自分ひとりが相続人であるならば、自分の滞納のせいで代位登記が行われたのですから「仕方のないことか…」と納得できるのかもしれませんが、大変なのは他に相続人がいるパターンです。
最悪の場合、相続人ひとりの債務のせいで不動産が差し押さえられてしまい、不動産の所有権をまるまる失うことになる可能性もあります。
各相続人の持分を確定しこのような事態を防ぐためにも、相続が起きたときには相続登記を速やかに行うことが大事です。
また、他の相続人に借金を抱えている人がいないかどうか、可能であれば調べておく等の対処が必要となります。
今後相続登記の義務化も予定されていますので、登記手続きについて調べたり、専門家に相談してみたり、親族と連絡を取ってみたり…、今のうちにできることから始めておきましょう。
(文責:坂本)