遺言
遺言書を作成しておいた方がいいケースとは
はじめに
遺言書は「多くの遺産があり、相続人間で争いがある」人が作成するものというイメージがありますが、実はすべての人にお勧めしたいと考えております。公正証書遺言の作成に比べて、遺産分割協議のために相続人全員で話し合いをする時間や費用、争いになって専門家に依頼する費用のほうが、コストがかかるからです。
また、争いがなくても相続人が行方不明で不在者の管理人制度を利用する場合などには膨大な手間と時間がかかります。
すべての方にお勧めしたいところですが、その中でも「特にお勧めしたいケース」をご紹介します。
作成した方がいい10のケース
1.法定相続分と異なる配分をしたい場合
相続人それぞれの生活状況などに考慮した財産分配を指定できます。
2.遺産の種類・数量が多い場合
遺産分割協議では、財産配分の割合では合意しても、誰が何を取得するかについては(土地・株式・預貯金・現金など色々な種類の財産があります)なかなかまとまらないものです。遺言書で指定しておけば紛争防止になります。
3.子どもがいない夫婦の場合
お子さんがいない場合には、相続人は配偶者+①親、②祖父母、③兄弟姉妹となります。配偶者と義理の兄弟姉妹との協議は、なかなか円満には進まないものです。遺言書を作成することにより、すべて配偶者に相続させることができます。(親がいる場合には遺留分にご注意ください)
4.農家や個人事業主の場合
相続によって事業用資産が分散してしまっては、経営が立ち行かなくなります。このような場合も遺言書の作成が有効です。
5.相続人以外に財産を与えたい場合
相続人以外に財産を与えたい場合は、遺言書がなければほぼ不可能です。内縁の配偶者は法律上の婚姻関係ではありませんので、相続権がありません。また、内縁の配偶者との間の子どもも認知をしていなければ相続権がありません。内縁関係の相手のお子さんに関しては、遺言書で認知することもで、相続権を取得することができます。
6.生前特にお世話になった人や団体、公共団体などへの寄付
お世話になった団体や、住んでいた地域、紛争解決や人権問題に取り組む団体等に自分の財産を役立ててほしいと寄付をお考えの方は、遺言書で遺贈先を指定します。
7.先妻と後妻のそれぞれに子どもがいる、配偶者以外の者との間に子どもがいる(婚外子)
別れた配偶者との間の子どもと現在の婚姻関係にある配偶者との間に子どもがいる場合、離婚した配偶者には相続権はありませんが、お子さんは法定相続人になります。前妻(夫)のお子さんや婚外子との間のトラブル回避のためには遺言書が有効です(ただし、遺留分には注意が必要です)。
8.相続人の中に行方不明者がいる
亡くなった人の財産を分割するためには、相続人全員の同意が必要となり、一人でもかけた場合無効となります。そのため、相続人の中に行方不明者がいる場合、そのままの状態で遺産を分割することはできません。そのような場合には、失踪宣告制度や不在者の財産管理人制度を利用するのですが、時間と手間と費用がかかります。
9.子どもが未成年
未成年のお子さんがいる場合、遺産分割協議では親とは利益相反の関係になりますので、特別代理人の選任を家庭裁判所に申し立て、選任された特別代理人と協議をします。ただし、法定相続分通りの共有名義で相続登記するのであれば、遺産分割協議をする必要がないので、特別代理人の選任も不要になります。共有名義にしたくない相続人がいる場合など遺産分割協議を行わなければいけない場合には、特別代理人を選任することになります。
10.自宅以外に財産がない
一見、揉めないような気もしますが、実は財産が自宅などの不動産の場合、現金と違って分けることができないため、揉める確率が高いのです。親子間で仲が悪い場合、配偶者がそのまま住み続けたくても売却してその代金を分けなければならない事態にもなりかねません。その場合には、配偶者居住権について遺言に記載すると配偶者が住み続けたままお子様に自宅を相続させることができます。
おわりに
他にもおすすめしたいケースはありますが、今回は10のケースをあげました。
遺言書を遺すことで相続人の手続きにかかる膨大な時間と手間を省くこともできますし、相続人同士の不幸な争いも回避することができます。また、コストの面でも、争続にかかる費用より公正証書で遺言書を作成する費用の方がはるかに少なくてすみます。
なお、作成にあたり相続人が不満を持たないようにするために、付言事項に気持ちを綴るなど、各相続人に配慮することが大切です。
遺言執行者を指定すると相続の手続きがスムーズに行えますので、遺言書の中で指定することをお勧めします。遺言執行者についてのご相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
(文責:高橋)