相続コラム

~相続に関する税金~
相続税

2023.05.01

相続に関する税金

金銭で納められそうにないとき~相続税の物納~

 はじめに

相続税は金銭で一時納付が原則ですが、中には、財産を相続したが現金がなく、期限までに相続税が一括で支払えないというケースがあります。その救済措置として、まず延納制度が設けられていますが、延納しても金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、一定の相続財産による物納が認められています。

本稿ではその物納について、要件や申請方法などをご説明させていただきます。 

物納の要件

次に掲げるすべての要件を満たしている場合に、物納の許可を受けることができます。

1.延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること。

2.物納申請財産は、納付すべき相続税額の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、次に掲げる財産及び順位(①から⑤の順)で、その所在が日本国内にあること。

【第1順位】

①不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等

②不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの

【第2順位】

③非上場株式等

④非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの

【第3順位】

⑤動産

※後順位の財産は、税務署が特別の事情があると認める場合や先順位の財産に適当な価額のものがない場合に限って物納に充てることができます。

※特定登録美術品については、上記の順序にかかわらず一定の書類を提出することで物納に充てることができます。

3.物納に充てることができる財産は、管理処分不適格財産に該当しないものであること。また物納劣後財産に該当する場合には、他に物納に充てるべき適当な財産がないこと。

4.物納しようとする相続税の納期限又は納付すべき日(物納申請期限)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署に提出すること。

 

管理処分不適格財産とは

次に掲げるような財産は物納に不適格な財産となり、物納申請財産として認められません。

【不動産】

  1. 担保権の設定の登記がされている、その他これに準ずる事情がある不動産
  2. 権利の帰属について争いがある不動産
  3. 境界が明らかでない土地
  4. 隣接する不動産の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の使用ができないと見込まれる不動産
  5. 他の土地に囲まれて公道に通じない土地で民法第210条(公道に至るための他の土地の通行権)の規定による通行権の内容が明確でないもの
  6. 借地権の目的となっている土地で、その借地権を有する者が不明であることその他これに類する事情があるもの
  7. 他の不動産(他の不動産の上に存する権利を含む)と社会通念上一体として利用されている不動産もしくは利用されるべき不動産、または二以上の者の共有に属する不動産
  8. 耐用年数(所得税法の規定に基づいて定められている耐用年数)を経過している建物(通常の使用ができるものを除く)
  9. 敷金の返還に係る債務やその他の債務を国が負担することとなる不動産(申請者において清算することを確認できる場合を除く)
  10. その管理または処分を行うために要する費用の額が、その収納価額と比較して過大となると見込まれる不動産
  11. 公の秩序または善良の風俗を害するおそれのある目的に使用されている不動産、その他社会通念上適切でないと認められる目的に使用されている不動産
  12. 引渡しに際して通常必要とされる行為がされていない不動産
  13. 地上権、永小作権、賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利が設定されている不動産で、次に掲げる者がその権利を有しているもの

  ・暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規定する暴力団員または暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者

  ・暴力団員等によりその事業活動を支配されている者

  ・法人で暴力団員等を役員等(取締役、執行役、会計参与、監査役、理事及び監事並びにこれら以外の者でその法人の経営に従事している者並びに支配人)とするもの

【株式】

  1. 譲渡に関して金融商品取引法その他の法令の規定により一定の手続が定められている株式で、その手続がとられていない株式
  2. 譲渡制限株式
  3. 質権その他の担保権の目的となっている株式
  4. 権利の帰属について争いがある株式
  5. 共有に属する株式(共有者全員がその株式について物納の許可を申請する場合は可)
  6. 暴力団員等によりその事業活動を支配されている株式会社または暴力団員等を役員(取締役、会計参与、監査役及び執行役)とする株式会社が発行した株式(取引相場のない株式に限る)

【上記以外の財産】

その財産の性質が上記に定める財産に準ずるものとして税務署が認めるもの

 

物納劣後財産とは

次に掲げるような財産は、他に物納に充てるべき適当な財産がない場合に限り、物納に充てることができます。

  1. 地上権、永小作権もしくは耕作を目的とする賃借権、地役権または入会権が設定されている土地
  2. 法令の規定に違反して建築された建物およびその敷地
  3. 土地区画整理法による土地区画整理事業等の施行にかかる土地につき、仮換地または一時利用地の指定がされていない土地(その指定後において使用又は収益をすることができない土地を含む)
  4. 現に納税義務者の居住の用または事業の用に供されている建物およびその敷地(納税義務者がその建物および敷地について、物納の許可を申請する場合を除く)
  5. 配偶者居住権の目的となっている建物およびその敷地
  6. 劇場、工場、浴場その他の維持または管理に特殊技能を要する建物およびこれらの敷地
  7. 建築基準法第43条第1項(敷地等と道路との関係)に規定する道路に2メートル以上接していない土地
  8. 都市計画法の規定による都道府県知事の許可を受けなければならない開発行為をする場合で開発許可の基準に適合しないとき、その開発行為に係る土地
  9. 都市計画法に規定する市街化区域以外の区域にある土地(宅地として造成することができるものを除く)
  10. 農業振興地域の整備に関する法律の農業振興地域整備計画において、農用地区域として定められた区域内の土地
  11. 森林法の規定により保安林として指定された区域内の土地
  12. 法令の規定により建物の建築をすることができない土地(建物の建築をすることができる面積が著しく狭くなる土地を含む)
  13. 過去に生じた事件または事故その他の事情により、正常な取引が行われないおそれがある不動産およびこれに隣接する不動産
  14. 事業の休止(一時的な休止を除く)をしている法人に係る株式に係る株券 

物納手続関係書類の提出期限

納期限又は納付すべき日(物納申請期限)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して提出する必要があります。

ただし、物納申請期限までに物納手続関係書類を提出することができない場合は、物納手続関係書類提出期限延長届出書を提出することにより、1回につき3か月を限度として最長で1年まで、物納手続関係書類の提出期限を延長することができます。 

物納の許可までの審査期間

税務署より、物納申請期限から3か月以内に許可又は却下の結果が出ます。

なお、申請財産の状況によっては、最長で9か月まで延長される場合もあります。 

物納財産の価額(収納価額)

物納財産を国が収納するときの価額は、原則として相続税の課税価格計算の基礎となったその財産の価額になります。

なお、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用を受けた相続財産を物納する場合の収納価額は、特例適用後の価額となります。 

物納の再申請

物納申請した財産が管理処分不適格と判断された場合には、物納申請が却下されますが、その却下された財産に代えて1回に限り、他の財産による物納の再申請を行うことができます。

なお、延納により金銭で納付することを困難とする事由がないことを理由として物納申請が却下された場合には、物納から延納へ変更することができます。 

条件付許可

汚染物質除去の履行義務などの条件を付されて物納の許可を受けた後に、許可財産に土壌汚染などの瑕疵があることが判明した場合には、汚染の除去などの措置を求められます。

なお、物納許可後5年以内に上記の措置を求められ、その措置ができない場合には、物納許可が取り消されることがありますので注意が必要です。 

利子税の納付

物納申請が行われた場合には、物納の許可による納付があったものとされた日までの期間のうち、申請者において必要書類の訂正等または物納申請財産の収納に当たっての措置を行う期間について、利子税がかかります。

また、物納申請が却下された場合や物納申請を取り下げた場合、納期限または納付すべき日の翌日から、その却下の日または取下げの日までの期間について、利子税がかかります。

なお、自ら物納申請を取り下げた場合は、さらに延滞税がかかることになります。 

おわりに

以上、相続税の物納について簡単にご説明させていただきましたが、手続きの煩雑さや対象財産の制限などを考えると、せめて延納か、やはり金銭一括支払いが望ましいかと思います。相続開始の前後を問わず、納税資金にご不安がある場合は出来るだけ早めに経験豊富な専門家へご相談されることをお勧めいたします。

(文責:尾上)

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